米国の景気動向を占ううえで、月初めに発表される重要指標のひとつが「ISM製造業景況指数」です。
企業の新規受注や生産、雇用、価格動向といった現場の声を反映するこの指数は、米製造業の拡大・縮小を敏感に示し、為替市場でも発表直後に反応が出ることがあります。
最新の11月分（12/1発表）では、全体指数が再び低下し製造業の縮小基調が続く結果となりました。
需要の弱さや雇用悪化が意識される一方で、生産の持ち直しや価格上昇など強弱の入り混じる内容となり、市場ではFRBの利下げ時期を巡る思惑が一段と高まっています。
本記事では、ISM製造業景況指数の結果と内訳、そのポイント、そして為替市場がどのように反応したのかを分かりやすく解説します。
ISM製造業景況指数の結果
12月1日に発表された11月のISM製造業景況指数（PMI）は48.2%となり、前月の48.7%から0.5ポイント低下しました。
50を下回るのは9カ月連続で、製造業の縮小基調が続いています。
ただし、ISMが示すように「PMIが42.3％を長期間上回っていれば全体の経済は拡大傾向」という基準から見れば、 米経済そのものは依然として拡大局面を維持していると判断できます。
需要減速を示す「新規受注」が弱く、雇用指数も悪化した一方で、 「生産指数」は改善するなど、強弱が混在した内容となりました。
ISM製造業景況指数の中身
今回のISM製造業の構成項目を見ていくと、製造業の“現場の温度感”がはっきりと浮かび上がります。
需要
- 新規受注：47.4%（前月比 −2.0pt） → 3カ月連続の縮小
- 受注残：44.0%（前月比 −3.9pt） → 生産の先行指標として弱い
需要は引き続き軟調で、景気の不透明感を反映。
生産
- 生産指数：51.4%（前月 +3.2pt） → 拡大に転じる
受注残が前月改善した影響が生産に反映される形で、活動ペースが持ち直し。
雇用
- 雇用指数：44.0%（前月 −2.0pt） → 6カ月連続の縮小
雇用調整の動きが続き、67%の企業が「採用ではなく人員管理が中心」と回答。
価格
- 価格指数：58.5%（前月 +0.5pt） → 価格上昇圧力が継続
コストの上昇は続いており、インフレ要因として意識される内容。
供給・在庫
- サプライヤー納期：49.3%（前月 −4.9pt） → 納期が早まる（需要減速のサイン）
- 在庫：48.9%（前月 +3.1pt） → 在庫調整は続くがペースは緩和
外需
- 輸出：46.2%（前月 +1.7pt） → 依然縮小
- 輸入：48.9%（前月 +3.5pt） → 縮小ペース減速
外需低迷は製造業の重しとなりつつも、改善の兆しもわずかに見られる展開。
ISM製造業景況指数のポイント
① PMIは低下、製造業の縮小基調は継続
PMIが48.2％と50割れが続いており、製造業はなお縮小基調。 特に新規受注の弱さが目立ち、需要が戻りにくい状況が続いています。
② 生産は回復したが、雇用は悪化
生産指数が拡大に戻った一方、雇用は44％まで悪化。 企業は雇用を増やすよりも“人員管理”に比重を置いている状況。
③ 価格指数は上昇を維持し、インフレ圧力が残る
価格指数が58.5％と上昇を継続しており、コスト増が続いています。 インフレの「粘着性」を示す内容。
④ 景況感は地域・業種でばらつき
拡大した業種は4業種のみにとどまり、 11業種が縮小を報告。製造業の回復はまだ部分的といえます。
ISM製造業景況指数の為替市場の反応
発表直後の為替市場では、一時的にドル売りが優勢となり、円高方向に振れる動きが見られました。
PMIが市場予想を下回り、50を割り込んだ状態が続いたことで 「米製造業の回復は遅れており、FRBの利下げが早まる可能性がある」 との見方が広がったためです。
市場の関心は、次に発表される ISM非製造業（サービス業） およびADP雇用統計、PCEデフレーターに移り、 FRBの政策判断がどちらへ傾くかを確かめる展開となっています。
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執筆者 西村大樹